小説「彼岸先生」を読んだ

とんでもない映画を見た時の興奮というのはものすごくでかい。僕はそのでかさに対しては一ミリの疑念さえ抱いたことがない。とにかくその衝撃、とんでもなさ、感動、なんとでも名付けようのあるそれにはただただ圧倒されるのみである。しかし、その圧倒され…

【書評】「僕は問題ありません」宮崎夏次系

宮崎夏次系という漫画家を知ったのは、星野源のラジオかなにかをyoutubeで視聴してだった。星野源は「変身のニュース」と作者の宮崎夏次系を推していた。 僕は本屋に走り宮崎夏次系のコーナーで「僕は問題ありません」というタイトルに惹かれてそれを手にと…

軽薄

自分が軽薄な人間を演じている感覚というのはあるわけです。 一方で、軽薄な自分を演じているということを根拠にして、自分はそこまで軽薄なわけじゃないと考えようとしている軽薄さもあるわけです。これは両方あるわけで、前者と後者をつなげて考えればそ…

わからないということ(2)

わからないということを大事にしてほしいと思います。 わからないことを、わからないという理由で顧みない大人は残念ながらたくさんいます。 大人はなんでもわかるはずというのが子供時代の幸福な幻想だというのは、高校生にもなった君たちにはもうわかって…

ぼくのかんがえたさいきょうの私の個人主義

自分が影響を受けたものといえば数え切れないほどあるし、そもそも数えることができない。自分でも知らないうちに影響を受けていることなんていくらでもあると想像される。 しかし、その中でも、自分自身これには影響を受けたと断言できる文章がある。影響を…

サイズ感

自分の服のサイズをきっちり把握するところからオシャレは始まる。 これ着たいあれ着たいだけではオシャレさんにはなれない。自分には何が似合うのか、何が似合わないのか、つねに己れに問わねばならぬ。 文章における文体もそれと同じで、かっちりフォーマ…

インヒアレントヴァイス(2ヶ月ぶり2回目)

映画を見ていると、映画を見るときの方法で映画を見るのが普通になる。 ちょっとナニ言ってるかわかんないと思う。解説しよう。 映画を見ているとだいたい登場人物が出てくる。登場人物が出てきたらだいたいその人物は何かを喋る。いわゆるセリフというやつ…

わからないということ

イキってジャズを聴き始めてからひと月が経った。 わずか一ヶ月前のことなのにきっかけがなんだったか忘れてしまったのだが、とにかくジャズを聴けるようになりたいと思って、毎日のスキマ時間にジャズを流した。流したといってもアイフォーンのイヤフォーン…

音楽性のちがいを認めるかどうかのちがい

音楽性の違いを理由に解散するバンドは多い。それが表向きの理由で、実際には人間関係のドロドロが二進も三進も行かなくなっての解散だったとしても、理由を音楽性の違いということにしておくバンドが多いのは、なんとなく音楽性の違いということにしておけ…

マグリット展の感想

このまえマグリット展を見に行った。シュールレアリスムというものの良さが自分にはわからないということがはっきりした。シュールは好きではない。たとえば、シュールな笑いだというとき、全然シュールじゃないだろうと思うことが多い。笑うし面白いのだか…

ザ・マスターの笑いどころ

映画『ザ・マスター(原題) / The Master』予告編 - YouTube 45秒でわかる映画「ザ・マスター」のあらすじ 第二次世界大戦の終戦後、出征兵士だった青年フレディ・クエルは、新規まき直しとして新しい職に就こうとするがどうもうまくいかない。どの仕事も…

鈍器のようなやさしさにブン殴られ

明治時代に自然主義文学というのが流行した。見聞きし、感じたことをありのままに書くのが文学であるという主義だ。「ありのまま」なんてきくと手垢のついたギャグのようにしかとれないけれど、当時の文学者は大真面目で自然主義を標榜していた。実際に自然…

グレーゾーンの重要性について

物事の白黒をつけないでいる態度というのは重要だと思う。こうやって白黒つけられない領域の話をするとすぐに飛び出すのは、グレーという色である。白とか黒とかいうのはたとえの話なので、グレーを持ち出すのは正しい。なあなあとかどっちつかずとか、そう…

センチメンタルを遠くはなれて

蟻の世界について考えをめぐらせるというとき、気分次第ではあるにせよ、深い感慨に誘われる。なぜなら蟻は小さく、懸命に生きているからだ。そこに同情をおぼえないわけにはいかない。しかし、蟻のように必死で懸命に生きたいかといえばそんなことはない。…

散文的な読み方と主題的な読み

誰しもが自分の考え方や人生への接し方に自信を持っている。面と向かってそう言われると、あるいは、自信があるわけではないと応酬するかもしれない。しかし、それは自分の考え方や人生への接し方について自分というものを離れて見ることがないだけであって…

黙っているだけでは慎重さは身につかない

僕は普段から黙っていることのほうが喋ったりしていることより多い。 では黙って何をしているかといえば、べつに何もしていない。何もしていないといっても無になっているというわけではない。いちいち人に言うことでもないような雑多なことをしている。雑…

海街diaryをみた

海街diary 映画『海街diary』公式サイト | 大ヒット上映中 映画「海街diary」をみた。今年度ベスト級のおもしろさだった。いや、今まで見てきた映画の中でもベリーベスト。それほどの衝撃を受けた。カンヌで賞を取れなかったのは本当に残念。今年の審査員長…

キレ芸の条件

最近キレてますか。そう訊かれて動きのキレを確認した人はよっぽどのお人好しなんでしょうが、そっちのキレではなく、ブチ切れるのほうのキレです。できるだけキレないように、落ち着き払って、にこやかに生きていきたいものです。しかしそうは言ってられな…

正しいインスピレーションと楽しいイントネーション

概念がある。概念はない。 頭のなかに概念がある。目に見える場所に概念はない。 たとえばインスピレーションというのはひらめきとも言い表すことができる概念である。インスピレーションのしっぽをいつも追いかけているような気がする。いつかインスピレー…

質問上手は生き上手

夏目漱石に「夢十夜」という短編がある。「こんな夢を見た。」という文章から始まる夢の話を十並べた小説で、幻想小説として有名な作品である。夢の話というと、退屈な話の代名詞にもなるぐらい、一般につまらないと思われている。現実感というものが物語に…

瞬間の美学

日々の面白というのは大変によわい立場にあります。というのも、面白とは、それを面白として認識する人がいてはじめて面白なのであって、誰にも認知されないでただただ光り輝く天然自然の面白というのは存在しえないからです。 一瞬一瞬というのは本当に一瞬…

分別ざかり

分別ざかり サルトルの「自由への道」を途中まで読んだ。 第一部は「分別ざかり」といって、主人公のマチウがある選択を迫られる3日間の話だ。舞台は1938年6月のパリである。高校の哲学教師のマチウは自由を信条として生きる34歳、彼に迫る選択はパートナー…

ゴミだらけの路地

本が好きということと、自分が好きな本が好きということの間には大きな溝がある。音楽が好きということと自分が好きな音楽が好きということも同じだ。映画も、テレビも、絵も、なんでもそうだ。僕は本が好きでよく本を読む。しかし、それはどんな本でも活字…

何事もコンディションに応じるということ

自分が面白いと思う物事は体調のよさに支えられている。 面白いことのほとんどはある程度の負荷がかかる。そういう負荷がかからないと、何か物足りないということになるんだと思う。無条件に、何の労力もなく、ただただ与えられるだけの面白さは、いくら量…

あざとさに対する感度

世間では「あざとい」といって何かを厭わしい目で見るような場合がある。僕にはその意味がわからない。やりすぎとかドヤ感とか狙いすぎとか衒ってるとか、そういう負のニュアンスの綜合だということはわかるんだけど、あざとくてなにがいけない?と思ってし…

口偏に虚しい

嘘だったら何を言ってもかまわないと思っている節がある。逆に、嘘じゃないとしたら言っていいことは限られると思っている。ぼくはどんなことでも言いたい願望を持っており、嘘じゃないことを言うときの言う/言わないの取捨選択が負担になることを知ってい…

登場の方法

どんな登場の仕方をするか。 それは現代人にとって極めて重要な問題です。 何かの場に現れるとき、姿を見せる瞬間、それがその会見全体の出来不出来を大きく左右する。 登場がバッチリ決まっていながら全体の印象がイマイチに終わるということはまずないし…

青の時代

「青の時代」という言葉がある。ピカソの画風を時期によって峻別するとき、ピカソみずから「こっからここまで青の時代な」と言ったらしい。ピカソの絵はあんまり知らないけど「青の時代」という言葉は言い得て妙だと感心した。たしかに人間誰しもそういう時…

音楽のこと

最近、ゆらゆら帝国ばっかり聴いている。 ゆらゆら帝国 / 発光体 - YouTube 僕は自分で思ってるよりも音楽が好きなんだということを最近知った。 移動の時間には必ずといっていいほど耳にイヤホンをさしているし、部屋でも音楽を聴いてないとき以外はいつも…

バードマンの話

このまえ見たバードマンという映画がとっても面白かったので、バードマンという映画の話をする。 バードマンという映画は、バードマンというハリウッドスーパーヒーローに変身するイケてるおじさんが、時の流れによってヨボヨボではないけどおじいさんの入…