読書感想文

村上春樹の会話文から感じること

僕は村上春樹の小説を読むのが好きだ。村上春樹も村上春樹の小説も嫌いではない。 僕が小説を読むときにもっとも興味惹かれるのは会話文である。反対にあまり読み進めるのが得意でないのは情景描写である。 村上春樹の小説中の会話はとてもユニークだ。だか…

ウォーキング・ミュージックとランバンを退任したエルバス

読めない本には決まりがある。 一文の中にある単語の2つまでが分からなかったら、その文章は基本的に意味を結ばない。 一ページのなかに意味を結ばない文章が2つあったら読み通す気が失せる。3つで完全になくなる。 僕が最近読んだ読めなかった本に『服はな…

気になる時間

「還らぬ時と郷愁」という本を読んだ。 この本を読むためにはいくつか外せないポイントがあるが、まずは《逆行できないもの》という概念を理解しなければならない。逆行できないものというのは、さかのぼったり来た道を引き返したりできないもののことを指…

「サキ傑作集」の奇妙な読後感について

「サキ傑作集」 を読んだ。 サキ傑作集 (1981年) (岩波文庫) 作者: サキ,河田智雄 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1981/11/16 メディア: 文庫 クリック: 1回 この商品を含むブログを見る この世界にはさまざまな小説があるが、異色の小説というものだけ…

2015年のクリスマスに読んだ本

先日、〈夢中になって本を読むごっこ〉を久しぶりにした。 夢中になって本を読むごっことは、その名の通り、夢中になって本を読む姿勢を競う遊びである。 電車内で夢中になって本を読んでいると、いつの間にか電車が終点に到着する。そのまま夢中になって読…

生まじめと不まじめについて

「生まじめ」と「不まじめ」というのはコインの裏と表に喩えられる。 生まじめというのは単体で成立する観念ではなく、不まじめとセットになっているものであり、逆もまたしかりだ。 ふたつの相反する観念はつながっていると考えると、まさにコインの裏と表…

松本大洋「SUNNY」を読んだ。

松本大洋の「SUNNY」を読んだ。この漫画はつよくおすすめしたい。 6巻が最終巻ということで、ちょっと寂しい気もするけど、勝手なことを言っていてはいけない。 読み取ることのできるすべてがサニーのなかで展開されていたのだから、寂しくなったら読み返せ…

ホームレス小説「ニッチを探して」を読んで

島田雅彦の「ニッチを探して」はホームレス体験小説である。 現代の東京を舞台にこれほど異世界的かつリアルな物語が描けるということにまずは驚く。お金がないというだけで、東京という街の様相はまったくちがって見える。コンクリートジャングルのサバイ…

「こころ」に見るエゴイストの告白

告白をするかどうか 「こころ」の第三章にあたる「先生と遺書」では、先生の暗い過去が語られる。 それは先生の友人Kの自殺に関係する話である。同じ下宿に住んでいた先生とKは同じ相手に恋をする。下宿先のお嬢さんである。 ある日、Kはそのことを先生に告…

小説「彼岸先生」を読んだ

とんでもない映画を見た時の興奮というのはものすごくでかい。僕はそのでかさに対しては一ミリの疑念さえ抱いたことがない。とにかくその衝撃、とんでもなさ、感動、なんとでも名付けようのあるそれにはただただ圧倒されるのみである。しかし、その圧倒され…

【書評】「僕は問題ありません」宮崎夏次系

宮崎夏次系という漫画家を知ったのは、星野源のラジオかなにかをyoutubeで視聴してだった。星野源は「変身のニュース」と作者の宮崎夏次系を推していた。 僕は本屋に走り宮崎夏次系のコーナーで「僕は問題ありません」というタイトルに惹かれてそれを手にと…

鈍器のようなやさしさにブン殴られ

明治時代に自然主義文学というのが流行した。見聞きし、感じたことをありのままに書くのが文学であるという主義だ。「ありのまま」なんてきくと手垢のついたギャグのようにしかとれないけれど、当時の文学者は大真面目で自然主義を標榜していた。実際に自然…

瞬間の美学

日々の面白というのは大変によわい立場にあります。というのも、面白とは、それを面白として認識する人がいてはじめて面白なのであって、誰にも認知されないでただただ光り輝く天然自然の面白というのは存在しえないからです。 一瞬一瞬というのは本当に一瞬…

分別ざかり

分別ざかり サルトルの「自由への道」を途中まで読んだ。 第一部は「分別ざかり」といって、主人公のマチウがある選択を迫られる3日間の話だ。舞台は1938年6月のパリである。高校の哲学教師のマチウは自由を信条として生きる34歳、彼に迫る選択はパートナー…

青の時代

「青の時代」という言葉がある。ピカソの画風を時期によって峻別するとき、ピカソみずから「こっからここまで青の時代な」と言ったらしい。ピカソの絵はあんまり知らないけど「青の時代」という言葉は言い得て妙だと感心した。たしかに人間誰しもそういう時…

チェーホフ一読のすすめ

僕は別に、何か特別なものになりたいとも思わないし、偉大なものを創りだそうという気もないけど、ただ、生きつづけて、夢を見、希望をもち、どんなところにでも遅れをとらずに駈けつけたいだけなんだ…… ロシアには偉大な作家が三人いる。トルストイ・ドスト…

「東京飄然」町田康 【読書感想文】

東京飄然 (中公文庫) 作者: 町田康 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2009/11/24 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 18回 この商品を含むブログ (18件) を見る 旅に出たくなった。なぜか。理由などない。風に誘われ花に誘われ、一壺を携えて飄然と…

女子!

好きというのはどういうことなのか。これまであまり考えられてこなかった問いを問う時が来た。 先日、テレビ初放送になった「風立ちぬ」を見た。続けざまに漫画「ハウアーユー?」を読んだ。この2作品に共通するのは、好きというのはどういうことなのかにつ…

「ペスト」アルベール・カミュ【読書感想文】

ペスト (新潮文庫) 作者: カミュ,宮崎嶺雄 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1969/11/03 メディア: 文庫 購入: 4人 クリック: 104回 この商品を含むブログ (78件) を見る むかし、世紀末思想というのが流行ったらしい。ノストラダムスの大予言というやつだ。…