「お笑い向上委員会」を見た

 
「お笑い向上委員会」というテレビ番組を見た。司会者は明石家さんま。踊るさんま御殿のスタイルを踏襲しながら、ゲストをお笑い芸人で固めた硬派なトーク番組だ。
トーク番組とはいいながら、番組の大半をがなったりどなったり大笑いしたりしている。テンポが早いといえば聞こえはいいが、うるさいと感じる人にはただうるさいだけの「やかましいバラエティ」の極北に位置する低俗番組である。
お笑いに良識や高尚なものを求めようとする人にとっては、いま最も悪いお笑い番組だといえる。
「お笑い向上委員会」は笑いにセンスを感じたいという人にも物足りないかもしれない。よく、文字起こししたら全然面白くないといってネタを批難する人がいる。そういう人はだいたい落語を本で読んで悦に入ったり、チェーホフの戯曲を読んでうっとりしたりする。
お約束とお約束からの発展、お約束からの逸脱で展開していく番組内容を文字起こししても面白くないに決まっている。
しかし、番組の文字起こしが面白くないからといって番組が面白くないわけではない。
番組はドラマ仕立ての演出をしているが、見ている側としてはスポーツ観戦により近い。芸人たちが一瞬一瞬、場の盛り上がりに賭けている一生懸命な姿が心を打つのである。というと収まりが良すぎる。スタジオ全体が大きなひとつの強迫観念に突き動かされているさまが、グロテスクな見世物になっている。
なんにせよ、感動した時に涙を流すなんていうのはまだ低級である。人は感動した時、動かされた感情を何らかの形で表出するが、それが笑いで、感動して笑ってしまうというのが高級だと思う。
一方で、番組には「すごいなあ。」と思わせられる芸人はあまり出てこない。独自の世界観をもって単独ライブをガンガンやっている天才ではなく、ドブ芸人たちがガヤガヤやって、30分に満たない時間で数え切れないほどの山場を入れ替わり立ち替わりで用意するのである。そこにカタルシスのようなものがある。
そんな中で異彩を放っているのは、ずんの飯尾である。トレンディー芸人というかシティ派というか、ほどよい抜け感で何とでも合わせられ、目立ちすぎないけれどしっかりアクセントにもなる、玄人好みの芸人である。ドブカオスな展開で彼の実力は悪目立ちしている。すごいなあと思わせないのがすごさのようなところがあるのに、番組内で彼のすごさが明らかになってしまっている。
あと、目をひくといえば今田耕司。彼はよくわからないものをそれなりにパッケージして出荷するのが異常に上手い。
お笑いについて語るのはダサいし、逆に面白いということにもなってないけど、つい書きたくなったから書いた。「お笑い向上委員会」はどっからどう見ても悪趣味な番組なので、良識派の僕にとってこれを面白いと思うのは新鮮だった。「踊るさんま御殿」「恋のから騒ぎ」はそんなに好きじゃない。
ドラマというフィクションの様式をつかっていることで、番組内に濃く漂っている暴力の雰囲気を楽しめるようになっているのかもしれない。フィクションと暴力について始めると収集がつかなくなるのでそれはまた別の機会に。