愛・笑い・異常

 
パンチドランク・ラブ」という奇妙なラブコメ映画を見た。僕はラブコメではあまり笑えない性質というか、ぶっちゃけ何が面白くて「ラブ・コメディ」というジャンルが成立しているのかもよくわかっていない。笑いたいのかロマンスを見たいのかどっちなんだ。たぶんどっちもなんだろう。
でも「人のセックスを笑うな」じゃないけど人のセックスってそこまで笑えるものか?という疑問はどうしても湧いてくる。恋愛なんていうのは個人的なものすぎて安易に典型を使うとなんというか死に体になるし、だからといって共通の感覚みたいなものがないとコメディって成立しないと思うので、そこの駆け引きがむずかしいんだと思う。恋の駆け引きみたいなことがよく言われるけど、まさにラブとコメの駆け引き的なものがひょっとするとウケているのかもしれない。
 
みたいにマジメなことを根がマジメなばっかりに言ってしまってすこしお寒い感じになってしまうんだけど、結局のところ、かるく笑えて、ちょっぴりトキめいてみたいなのが求められてるんだろうとは想像。それだったらちょっとはわかる気がする。
でも僕の考えでは面白さにも度合いというのがあって、それこそバチボコおもしろいものからソコソコおもしろいものまで、一応全部が全部面白いの範疇に含まれるから気をつけないといけないと思ったりもする。人それぞれの表現で「チョー面白い」が100点満点で言うところの60点だったり、80点だったり、120点だったりする。ちなみに僕にとってストレートなラブコメは「控えめに言ってもおもしろいと言わざるをえないほどおもしろい」というので点数で言うと69だ。ふたりが出会って、関係がヤバくなって、仲直りして、という流れの合間にキスしたりセックスしたりするコメディ。あんまりシニカルに言いすぎると照れ隠しみたいになって恥ずかしいけど、それはそうじゃなくて、じつのところ僕は生粋のロマンチストなのでことロマンスに関してはどうしてもうるさくなってしまうのだ。それも恥ずかしいか。
 
ロマンチストというのはともすればバランスを崩しがちな人種だと思う。結局、僕がラブコメが楽しめないのも、ロマンスとコメディの駆け引きが成立してないと思うからだ。普通の人の普通のバランス感覚では許容できるのかもしれないけど、ロマンチスト特有のアンバランスなバランス感覚では、あきらかにコメディの成分が足りてないだとか、その逆だとか、とにかくラブコメ全般ことごとく吊り合いが取れていないように思えて仕方ない。そういうのに気を取られてしまって、どうも雰囲気(ムード)を楽しむ余裕が持てないのだ。われながら厄介なものだと思う。しかしロマンチスト代表として一言すると、そのアンバランスな感覚こそがロマンス全体にとっての鍵にちがいない、と確信している。このあたり、恋愛が個人的すぎるというゆえん。そもそも普通の人の普通のバランス感覚なんていうのも大概眉唾ものだ。
 
その点、奇妙なラブコメたる「パンチドランク・ラブ」はぶっ飛んだ映画であり、だからこそ微妙なさじ加減にいちいち文句を垂れる必要がなく、無心に楽しめるラブコメとして優秀だと思う。このぐらいぶっ飛んでくれていた方がかるく楽しめる。
よくあるラブコメの何が鬱陶しいかって、ものすごく共感を求めてくるところだったりする。はじめから共感できないものをズバッと提示してくれた方が潔いと思うし、僕の場合なんかは「わからない」と言いたくない一心で意味不明なものほど一生懸命わかろうとするから、結局、そっちのほうがのめり込みやすい。
この映画の主人公は異常者だ。周囲の全員を厄介者だと思っているが、周囲からは一番厄介だと思われている。ためこむだけためこんで突然キレて、ガラス製品を粉々にしたりする。
でも恋愛なんていうのはそもそも異常な行為であって、たまたまみんながやっているから普通みたいになっているけど、よく考えてみてほしい。いや、よく考えるからおかしいのか。しかし、なんにせよ奇妙なものにはちがいない。
 
その奇妙なものを普通っぽく見せるのがラブコメの条件のひとつで、なぜそうするかというとそうしないと共感させられないからで、なんで共感させたいかというと笑わせたいからで、どうして笑わせたいかというとコメディだからで、……
……ラブ・コメディ。やはり考えれば考えるほど奇妙だ。奇妙なものはそれそのものを見せれば十分笑えるはずなのに、べつの面白さを提示してくるのはどうも腑に落ちない。不自然なものを感じる。というかわからない。わからないのは口惜しい。僕は普通のラブコメを見ると口惜しくなる。
 
パンチドランク・ラブは奇妙なラブコメなので感覚のあわなさに伴う焦燥を感じなくて済む。だから気軽に楽しめる。恋愛という異常な行為とそれに伴う異常な感覚・感情をそのまま引っぱり出してくるようなところがあって、コメディとしてもかなり面白いと思う。ちゃんとした暴言もあれば暴力もある。恋愛におけるコメディ要素の使うべきところを使っていると思う。
 
それでは聴いてください。
高橋ひろ「アンバランスなKissをして」