放り投げたレモンは落ちる

 

放り投げたレモンは落ちる《諺》

―放り投げたレモンが地面に落ちるように、予想できることをすればその通りに事が起こるさま。

 

この前、レモンを持ってみた。
レモンを持ってみると、会う人会う人に「何持ってるんですか」と尋ねられる。
こちらはそれを期待してレモンを持っているのだから予定通りの返答をする。「インスピレーションの実だよ」
そうすると聞き取りづらかったのか、質問者は「何て?」という顔をする。そこで種明かし。「じつはレモンでした」「なあんだ」「ドッキリ大成功だね」「でもなんでレモン持ってるんですか」「だからインスピレーションの実なんだ」「なるほど」
大体上のようなのが僕の想定としてある。
想定は想定として、実際には下のような経緯をたどる。
「それ何ですか」「レモン」「レモン?」「レモン、インスピレーションの」「意味分かんない」「だからインスピレーションの実」「へえー」
 
しかし、ひとりの女の子は素敵だった。
「それ何ですか」「レモン」「なんでレモンなんですか?」「インスピレーションの実なんだ」「なるほど!!」
なんかわからないけど納得された。負けたと思ったし、なんとなく嬉しかった。
彼女が本当に「なるほど」と思ったかどうかというのは、そもそもインスピレーションの実というワードがちゃんと聞こえていたのかは、一考の余地ありだけれど、適当に応えていたとしても僕の意に適っていたことにちがいはない。それでこそレモンを持った甲斐もあるというもの、レモン持ち冥利に尽きる。一箇80円のシチリアレモン。