「さようなら」の実感

行く春や鳥啼き魚の目は泪 松尾芭蕉の句にこんなのがある。「おくのほそみち」で東北への旅に出る芭蕉が、もしかしたら自分の最後の旅になるかもしれないと思い、旅立ちの別れを惜しんで詠んだ句である。 この句では当たり前のことしか言っていない。 鳥は鳴…

なぜお前はつまらないテレビドラマを見、くだらない小説を読むのかという問いに対する「暇つぶし」以外の答え

月9(月曜日9時から放映のテレビドラマ)を見た。「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」というタイトル。 感想を結論から言うとつまらなかった。ツッコみたくなるポイントはいくらでもあるけど、そんなのは些末なこと。誰それがかわいい、誰そ…

フライは高い

タランティーノの映画を見て引き裂かれないような奴はウソだ。嘘つきじゃない。嘘だ。 ヘイトフルエイトという映画を映画館で見てきた。映画を見るためにある場所が映画館で、その映画館で見るものは映画。そう思うから僕は映画は映画館で見たい。 タランテ…

このまえ驚いたこと

この前、驚いたこと。 1.月亭方正の落語が面白かった。 2.村上ショージの漫談が面白かった。 ・はじめに 2016年現在、日本では国民のおよそ二人に一人がお笑い好きであるとされている。 これは世界でも類を見ないほどの数字であり、日本のお笑い文化の水…

否定は僕たちの記憶を生み出す

否定は僕たちの記憶を生み出す 記憶をさかのぼってどこまでいけますか? と聞かれたら、僕は「最初までいける」と答える。最初というのは生まれた瞬間のことではなく、生まれてくる前のことだ。 僕には生まれる前の記憶がある。金色の壁から光が通ってくる…

村上春樹の会話文から感じること

僕は村上春樹の小説を読むのが好きだ。村上春樹も村上春樹の小説も嫌いではない。 僕が小説を読むときにもっとも興味惹かれるのは会話文である。反対にあまり読み進めるのが得意でないのは情景描写である。 村上春樹の小説中の会話はとてもユニークだ。だか…

最近見た4本の映画の感想

映画の日(毎月1日)周辺に映画館で映画を4本見た。どれも面白かったので感想を書く。ネタバレはしないつもりだけど、ひょっとしたら勢い余ってしてしまっているかも。 ・オデッセイ ・キャロル ・ディーパンの闘い ・サウルの息子 ・オデッセイ マット・デ…

ウォーキング・ミュージックとランバンを退任したエルバス

読めない本には決まりがある。 一文の中にある単語の2つまでが分からなかったら、その文章は基本的に意味を結ばない。 一ページのなかに意味を結ばない文章が2つあったら読み通す気が失せる。3つで完全になくなる。 僕が最近読んだ読めなかった本に『服はな…

とりあえずの目的について

僕はどちらかといえば手段と目的を分けて考えるタイプだ。 目的と手段にははっきりした主従関係がみられる。目的がえらくて手段がそれに従う。目的のために手段があるのであって、その逆ではない。倒錯とかないかぎりは。 たとえば、牧場に行くのは羊を見に…

気になる時間

「還らぬ時と郷愁」という本を読んだ。 この本を読むためにはいくつか外せないポイントがあるが、まずは《逆行できないもの》という概念を理解しなければならない。逆行できないものというのは、さかのぼったり来た道を引き返したりできないもののことを指…

空をとびたいと望むことあるいは可能でないことの記述について

Oscar Isaac - Fare thee well Orignal soundtrack (Inside Llewyn Davis) If I had wings like Noah's dove I'd fly the river to the one I love Fare thee well, oh honey, fare thee well. 空をとぶことは「できないこと」のカテゴリに属する。僕たちは…

「サキ傑作集」の奇妙な読後感について

「サキ傑作集」 を読んだ。 サキ傑作集 (1981年) (岩波文庫) 作者: サキ,河田智雄 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1981/11/16 メディア: 文庫 クリック: 1回 この商品を含むブログを見る この世界にはさまざまな小説があるが、異色の小説というものだけ…

2015年のクリスマスに読んだ本

先日、〈夢中になって本を読むごっこ〉を久しぶりにした。 夢中になって本を読むごっことは、その名の通り、夢中になって本を読む姿勢を競う遊びである。 電車内で夢中になって本を読んでいると、いつの間にか電車が終点に到着する。そのまま夢中になって読…

生まじめと不まじめについて

「生まじめ」と「不まじめ」というのはコインの裏と表に喩えられる。 生まじめというのは単体で成立する観念ではなく、不まじめとセットになっているものであり、逆もまたしかりだ。 ふたつの相反する観念はつながっていると考えると、まさにコインの裏と表…

放り投げたレモンは落ちる

放り投げたレモンは落ちる《諺》 ―放り投げたレモンが地面に落ちるように、予想できることをすればその通りに事が起こるさま。 この前、レモンを持ってみた。 レモンを持ってみると、会う人会う人に「何持ってるんですか」と尋ねられる。 こちらはそれを期待…

今日思ったこと

100年前の世界が見られるって、考えてみたら異常なことだ。でも僕たちはそれに慣れている。それに慣れた感覚からいえば、むしろ100年後の世界が見れないことのほうがおかしい気がする。100年前の世界が見える程度には100年後の世界も見えるべきだと思う。そ…

みんなリトルプリンスを見ればいい

「リトルプリンス 星の王子さまと私」を見た。とてもよかった。原作未読の人もまずは映画館に行ってほしい。後悔しないと思う。見てから原作を読んでもいい。言っておきますが「星の王子さま」は人生の必読書です。 原作を読んだことがある人はどうしても見…

慇懃無礼マン

自分は失礼を働くことができない。 誰かと同じ空間にいると、その間中、相手に嫌な気持ちを起こさせたらどうしようという不安に抑えつけられている。知っている人だったらどの程度が失礼になり、どの程度までがお巫山戯で済ませられるのかがわかるからだいぶ…

いかに悠長なことを言っていられるか

「ノーカントリー」という映画がある。 アカデミー賞に選ばれた映画で、監督はコーエン兄弟。原題は「No Country for Old Men」、コーマック・マッカーシーの同名小説を原作にもつスリラー映画である。 物語の筋は追跡劇である。カウボーイ生活をしているル…

クリスマスをひかえて

気がつけばクリスマスまで一ヶ月を切っている(これを書いている時点で11月27日)。 気がつけば期日が迫っているというのは万人に共通する時間感覚かどうかわからないのだが、自分に限っていえば、確実にそうだといえる。何事も、いつも、いつの間にか通過寸…

「お笑い向上委員会」を見た

「お笑い向上委員会」というテレビ番組を見た。司会者は明石家さんま。踊るさんま御殿のスタイルを踏襲しながら、ゲストをお笑い芸人で固めた硬派なトーク番組だ。 トーク番組とはいいながら、番組の大半をがなったりどなったり大笑いしたりしている。テンポ…

中毒者の言い分

最近調子がわるい。僕は気分が下向きのときは体調がわるいことにしているんだけど、それでいうとなかなか体調がわるい。 これは裏を返せば、自分の気分を上向きにできれば、わるい体調を解消できるということである。実際僕はこれまで何度も崩した体調をこの…

松本大洋「SUNNY」を読んだ。

松本大洋の「SUNNY」を読んだ。この漫画はつよくおすすめしたい。 6巻が最終巻ということで、ちょっと寂しい気もするけど、勝手なことを言っていてはいけない。 読み取ることのできるすべてがサニーのなかで展開されていたのだから、寂しくなったら読み返せ…

「おそ松さん」というテレビアニメをシェーして見ている

「おそ松さん」というアニメも面白い。もとの原作はアニメの「おそ松くん」ということになるだろうか。おそ松くんを始めとする松野家の六つ子が成長し大人になり、「身体は大人、頭脳は子供」とでも言うべき有様で変わらない日常を過ごすというのが物語の世…

「すべてがFになる」というテレビアニメを見ている

「すべてがFになる」というアニメが面白い。 もとの原作が面白いのだろうと思うが、アニメになってより面白くなっているような気がする。演出が冴えている。 話の面白さで勝負するのではなく、演出の冴えで魅せよう、原作を越えようという野望を感じさせるア…

短く話すことが出来ない

短く話すことができない。あー。とか、おー。とか言うのはできる。恋愛について話せとマイクを渡されても、なにがしかのことを一曲分ぐらい話したりできる。でもその間の「ちょうどいいサイズ」の発言がどうにも苦手だ。どこかにそういうのツマランという意…

理想のタイプは清水さん

理想のタイプは?という質問は多い。誰しも口を開けば二言目にはこの質問だ。僕はその都度、相手に合わせた回答を拵えようとして常に失敗をしてきた。相手に気を遣った結果相手を困らせることになるという悲喜劇はもう懲り懲りだ。理想のタイプは?という質…

3ない1ある

正しさを美しさと混同しない。 しようがないと思う瞬間に一番強く思っているのはしようがなくなんかないということなんだけど、そんな思いにもかかわらず状況はどうしようもないからこそしようがないと思っているわけで、そうすると口に出すのはしようがな…

ホームレス小説「ニッチを探して」を読んで

島田雅彦の「ニッチを探して」はホームレス体験小説である。 現代の東京を舞台にこれほど異世界的かつリアルな物語が描けるということにまずは驚く。お金がないというだけで、東京という街の様相はまったくちがって見える。コンクリートジャングルのサバイ…

「こころ」に見るエゴイストの告白

告白をするかどうか 「こころ」の第三章にあたる「先生と遺書」では、先生の暗い過去が語られる。 それは先生の友人Kの自殺に関係する話である。同じ下宿に住んでいた先生とKは同じ相手に恋をする。下宿先のお嬢さんである。 ある日、Kはそのことを先生に告…